10.終 宴



―――私と、賭けをしましょう。
 こんな思いをしてまで、生き残るのがしあわせなのか。
 貴方が私に見せて。
 もしも、それでも生きてゆくのがあまりに苦痛だと思ってしまったら。
 そのときは―――。



1.

 蜃気楼のようにぼんやりと、続く白い炎。一本の、地を奔るしるべ。
 きっと、熱など持たない、霊力の具現化なのだろうけど。そんなことはどうでもいい。
 ただ、豪雨にも夜の闇にも消されることの無いそのひかりが、導くその先にだけ、意味があるのだ。
 もうすぐ日付が変わる頃だろうか、それとももう変わってしまった? 時間の感覚は疾うにない。
 豪雨と時間とのせいで、人気のない道路を、走った。
 びちゃびちゃと烈しい水音だけが足元で起こって、耳に届く。
 息が切れて、肺がとても苦しがっているのが分かる。酸素が体に行き届かなくて、思考が働かない。
 本当ならもう走ることなんてやめて、その辺に座り込んでしまいたいぐらいだ。
 それでも、走っていた。


 一枚の毛布を頭からすっぽりと被って、そのはしを握り締めて膝を抱えてうずくまる。
 部屋の隅だ。角に背中を押し付けて、体をちいさく丸める。
 人の声など、何も聞きたくなかった。誰の視線も、要らなかった。
 罵声も好奇心も同情も慰めも、何も欲しくなかった。誰の手も。
 ひとりにしてほしかったのに。

 3年前。それは、囲いを解かれたばかりの僕だ。
 突然目の前が開けて、あまりにも自由になりすぎて、右も左も上も下も分からなくなってただ。怖かった。
 週刊誌に、記事が載った。
 宗教団体のことだった。母の変死のことだった。そして神の―――。
 それは今では、誰も覚えていないような話。消費されて消化されていった流行。
 けれどその嵐が過ぎるまでは、どんな視線もどんな言葉もどんな手も、人の温度すべて。なくなればいいと思っていた。
 あの時、あの手を取らなければ。
 体を縮めて、そんなことを何度も思った。
 一緒に行かないかと、差し伸べられたあの日のあの手を。掴まなければ。
 きっとこんな思いはしなくて済んだのに。
 ぐるぐると考えているうちにそれを消化できなくなって、一日中何も口にせずに部屋の隅でうずくまる僕を気遣うように差し伸べられた手に。
 噛み付いたことがある。
 それは比喩でもなんでもなく、この上顎と下顎で、この歯で、血が流れるほどその親指から手首にかけての間を噛んだ。
 口の中に僅かに鉄の味が広がって、僕はわけも分からずに泣く。膝に額を押し付けて体をちぢめて泣く。
 背中を摩る手の温度。あたたかくて、それが辛くて惨めになって、わざと残虐な台詞を吐く。
『助からないほうが、良かった』
 こんな気持ちになるなら。
 背中に触れる手が少しだけ止まって、今度は頭を撫でた。
 あの時、カズマはどんな顔をしていたのだろう。見ることなんて、出来なかった。
 励ましてくれたことは一度も無かった。頑張れとか、諦めるなとか、言葉をくれたことは一度も無かった。
 ただ、温度がそこにあっただけ。


 僕は今、びしょ濡れで走りながら、あの日と同じことを考える。
 もしも、あの手を掴まずにいたら。
 こんなふうに雨の中を必死に走ることなんて無かった。
 冷たくて、気持ち悪くて、息が切れて。こんな苦しさや辛さを味わうことなんて。
 恐怖や、不安や、焦燥や、こんなわけの分からない怒りを覚えることも。

 そして。
 雅さんや。
 都佳沙、勝利、先生やクラスメート。吾妻さんや姫架さん。
 大勢の人々と、出会ったり。
 怒ったり泣いたりからかわれたり馬鹿にしたり喜んだり。
 笑ったり。
 他愛の無い、そんなちいさな感情も、きっと知らないままでいた。
 きっと、ずっと。


            *


「都佳沙、要くんには見えているのか?」
 ベランダから室内に戻った都佳沙に、雅が訊いた。
 あの焔は霊力の具現化。それを視るに足りる力を持っていなければ、目印になどならない。
「見えてるよ。なんだか今日は随分と感覚が研ぎ澄まされていたから。それよりも僕らもあまりゆっくりは出来ないよ」
「そうだな、追うか。―――姫」
 ぐるりと一度首を回してから、雅はソファーのほうを見た。
 心なしか身を乗り出している姫架を見て、仕方なさそうに溜息をつく。
「当然だけどな、連れてかないぞ」
 分かっていたことなのだろうが、姫架はそれでも不服そうな顔をした。
「足手まといだ」
 すっぱりと雅は切って捨てた。
 こちらのほうがより効果的に納得させられるのだ。彼女は、プロだから。
 体を心配されたり、同情されたりするよりも。この一言が効く。
 姫架はしばらく黙ったあと、こくりと前に首を倒した。駄々をこねたりしなかった。
「分かった。でも、ひとつお願い。これだけは、絶対守って」
 姫架が、都佳沙と雅とを交互に見た。
「あたし自分で、殴ってやるから。絶対、連れて帰ってきて。もしも、死にたがっても、引きずってきて。お願い」
―――死んで欲しくないの。だからこれはあたしのためで、あたしの我儘。一馬兄がもし……。
 本人の前では、そこから先は言えなかった。
 もし。
 貴方が死にたくても。
 あたしは、認められない。
 辛いなら楽になりなよなんて言えないよ。悪いけど。
 生きていてくれなきゃ嫌だ。これは、そんなに我儘なことかな。

 真摯な姫架の眼差しに、雅は呆れたように溜息をついた。
「そんな当たり前のこと言うんじゃない。おとなしく横にでもなって、いかす啖呵、考えておくんだな。ひっぱたくときに言ってやれ」
 茶化すように雅が言うので、姫架は少し安堵したように笑った。


「じゃあ、緊急連絡先はここということで、お願いしますわ」
 玄関まで見送りに出た吾妻に、雅が言う。
「まぁ、俺は何も出来ないんでね。とりあえずここでお留守番してますよ。若者ふたり、預かっておくから」
 お互い苦労するもんだ。そんな笑いを共有して、どちらともなしに扉を締めた。
「急ごう」
 急に表情を引き締めて、都佳沙が歩き出した。
 エレベーターの下のボタンを押す。1階に停まったままで、もどかしい。
「地狼とはまた、厄介なのを呼んでくれたもんだ」
 珍しく下ろしている髪がなんとなく重く感じて、掻きまわしながら雅はエレベーターのランプを仰いだ。4、5と上昇する。
 チン、という音のあと、エレベーターの扉が開いた。目の前に鏡。やけに緊張した面持ちの自分の顔と対面する。
「失敗したら跳ね返ってくるのを知ってて呼んだのか、康臣は」
「自棄だよ、決まってるだろう」
 下降するエレベーターの、気持ち悪い感覚を味わいながら、都佳沙は苦虫を噛み潰した顔をした。

―――地狼です。
 家を出ようとした雅と都佳沙の目の前に、ぼとりと落ちてきたものがある。
 黒いちいさな塊だった。その塊が足元で呟いたのだ。
 その場にいた誰もが息を呑んだ。その落下物の名前は知っていたけれど、呼べもせずに。
『このような醜態を晒すのは気が引けがましたが、恥を忍んで御前に―――』
 人身に変化する力もなく、右の翼からおびただしく赤黒い血を流しながら、一羽の鴉が人の言葉を喋った。
『康臣は、地狼を召喚しました。目的はおそらく私ではなく、成瀬殿』
 地狼。それは黒いびろうどのような毛を持つ大型の狼。
 凶暴で血と肉とを好み、術者の血液を媒介に召喚する。術者の能力が自らよりも下と見るや、襲い掛かり食い散らす。
『申し訳ございません。片目を潰してやるのが精一杯でした。足止めに結界を施しましたが、おそらくすぐに破られるでしょう』
 そういう叶の黄色い嘴の先は、赤黒く汚れていた。
 お前と地狼とでは力が違う。仕方がない、と傍にいた始が言った。

「康臣は一馬を、喰わせるつもりか」
 雅の独白に、都佳沙は答えない。目の前でエレベーターの扉が開いた。
 エントランスホールを抜け、自動ドアをくぐりぬける。灯油にひたした縄に火をつけたような、白い焔が揺れている。
「この火……」
 突然、右手側から声がした。炎が伸びているほうだ。
 声に弾かれるようにしてふたりがそちらを見ると、学ラン姿の少年がひとり、そこに立っていた。
 黒髪から雫を滴らせ、少年は都佳沙を見ている。
「あんたの、力?」
 呉仁は、地を走る一本の焔を見下ろして、訊いた。
「どうして君がここに……」
「銀の家に、行ったら、こっちにあんたらがいるって……。途中でこの火を見つけて、逆に辿った」
 以前会ったときのような覇気が仁からは感じられなかった。
 どこか萎んだような、全体的に小さくなったような気がした。
「なぁ、もうどうすればいいか分かんないんだ。助けてくれよ……」
 右手で、重そうにうな垂れる額を押さえて、仁が言った。僅かに笑った口元が、震え出す。
「止めてくれよ、お願いだから」
 堪えても堪えきれないように肩が震え出す。
「櫛引と、姉さんのこと、誰か止めてくれよ―――」


            *


「何故、櫛引を助けた」
 ゆっくりとした歩みで伸び放題の庭へ踏み入れる、義妹の足。
 それを視界におさめながら、覚は訊いた。
 あのとき何故、櫛引充を癒し、逃がした。
「賭けを」
 ふとたちどまり、肩越しに少し振り返る。長い黒髪が彼女の表情を隠した。
「賭けをしたんです」
 烈しい雨音に掻き消されぬ、凛とした女の声。
「賭け、だと? あれが全ての発端だったのだぞ」
 声に苛立ちを含ませると、奈津がふふ、と肩を震わせるようにして笑った。
「あれが始まりじゃないですよ、義兄さん」
 体半分振り返り、顔をこちらに向けた。吸い込まれそうな漆黒の瞳。
 どこか潤んだような、達観した瞳だった。
「私が―――私や仁、木葉が生まれたときから、はじまったのですよ」
 この世に、産み落とされたその瞬間から。血につながれた力のせいで。
「貴方の苦しみも、そうでしょう? 義兄さん。私たちが呉に引き取られなければ、苦しまなくて済んだのに」
 はじまりは。
 ある冬の日だった。
 見知らぬ高校生と、その背にしがみつくような小学生ふたり。
 奈津と、仁と木葉。お前の妹と弟だよ。
 今にも泣き出しそうなちいさな少女と、その傍でこちらを睨む少年と。
 どこかうつろな、潤んだ瞳を持つセーラー服の女。
 そう。始まりは全て、あの日だった。
「私は貴方から、何も奪いたいとは思わなかった。私を呉の後継にしようとしたのは、父です。けれど、呉は代々直系が継ぐ仕来りだったでしょう。貴方は嫡男で、何も恐れることなどなかったのに」
 そんなに、と呟いて奈津は俯いた。
「そんなに、私は邪魔でしたか」
 貴方の立場を、脅かす魔物に見えましたか。
 何も返さず黙り込む覚に、奈津はかすかに笑ったように見えた。
「そんな問いかけも、もう意味を持たなくなります。ただ、お願いします。仁と木葉を、呉から解放してあげて下さい。……かわいそうです」
「……お前は、何をしようとしている」
 相手がまるで、得体の知れない何かのように思えた。彼岸のものに。
 問いかけに、何かを答えようと奈津が視線を寄越したそのとき。
 雨音を裂くように聞こえてきたのは、獣の咆哮だった。



2.

 ぱたぱたと音を立てて、古びた畳に落下する、生ぬるい雫。
 突き立てられたままの刃。
 鉄の匂いが強く香った。

「弱肉強食だよ」
 充が言った。
「この世界はすべてそうだ。弱いものは強いものに淘汰されてゆく。そして、より強いものだけが生き残る権利を得る。簡単な図式じゃないですか」
 血のついた服もそのままに、充はそこに立っていた。
「私はまだ、生き残るのに不十分なので、貴方の力が欲しいんですよ」
 だって貴方、要らないでしょう。
 その、左手の内側をひどく傷つけるぐらい、今みたいに血を流すぐらい、憎んでいるのなら。
「私に下さい」
「そうしてお前は、喰い続けて生きていくのか?」
 突き立てられたままのナイフに手をかけ、ずるりと引き抜いた。
 裂くような痛みと、せき止められていた血液が溢れ出す熱さ。その流れが一気に、指先まで赤く染めた。
 一馬が足元に投げ捨てた血にまみれたナイフを一瞥してから、充は頷く。
「そうですよ。そういう生き物ですから。それを認めない貴方のほうが、惨めだよ。―――だから、ナイフは抜かないほうがいいと言ったじゃないですか」
 手から絶え間なく落ちる血液の軌跡を追う目を、少し細めてみせる。
「だけどどうせ、貴方はすぐ死にますけどね」
「力の略奪を行えば、今以上に化け物に成り下がるぞ」
 一瞬、充は真顔に戻る。そしてすぐにけたたましく笑い出した。
 口元を押さえるように、引きつった笑いを繰り返す。
「いいんですよそれで。私は、化け物になりたいのだから」
 なんだって? と訊き返そうとして、言葉にならなかった。
 背後で突如、おそろしいほどの殺気が膨れ上がったのだ。
 強い、血の匂い。
 反射的に体を退けると、先程までにいた場所を、鋭い顎が噛んだ。
 服のはしが巻き込まれて、その牙に千切られる。
 一馬は改めて、その殺気の正体を見据えた。
 ぐるぐると、鳴る咽喉。激しい息遣い。今まで、気配など感じなかった。
 黒い毛並みの、大型犬よりも一回り大きい獣だ。ひたすら鼻をひくつかせ、何かを探る動作をする。
「地狼……」
 背後に迫った獣を見て、櫛引が呟いた。
 前足で足元をざりざりと蹴り、しきりに咽喉を鳴らす。よく見ると、目が赤黒く潰れていた。
 知らぬうちに、距離をおくようにあとずさっていた。
 たつたつ、と新しい血が畳みに落ちる。それに、獣は敏感に反応した。
「血が好きな獣です。今は特に目が潰れているから、嗅覚に頼るでしょうね。貴方を喰いたいようですよ」
 あふれ出る鮮血の、その匂いに敏感に首を動かす。
「随分と、冷静なんだな」
 視線だけを充に向け、一馬は言った。
 背筋を、つめたい流れが落ちる感触。それは決して雨ではない。生命の恐怖に、本能的に体が動かなくなっていた。体が冷えてゆく。
「脅威では、ないじゃないですか」
 悠然と、泰然と、櫛引は窓枠に凭れていた。
「私たちにとっては、なにものも脅威じゃないんですよ。生命ある、意識あるものはね」
 ゆったりと、櫛引は窓枠から体を起こした。すぐ傍で、縮まって眠る少女が僅かに身じろぎする。
「なに……」
「本当に、自分の力がどのようなものか、知らないんですね成瀬さん。知ろうとしなかったのかな」
 同じ色の瞳を一馬に向け、充は子どもの無知を笑うような顔をした。
「貴方は、人にも妖にもなれない、情けない生き物だと言うけれど」
 一馬が流した血痕を踏みつけにして、獲物を求めて牙を剥く黒い狼の前へ進み出た。
「やめろ……!」
 思わず一馬は制止の声をあげた。
「怖い力なんですよ、本当は。恐ろしい化け物なんだ」
 近くに迫った人の気配を敏感に察知して、地狼が牙を剥いた。一度体勢を低くし、目から血を流しながら飛び掛る。
 血が散った。
 充は動かず、たやすく自らの左腕を噛ませた。がきり、と鈍い音がする。
 骨ぐらい、砕けたかもしれなかった。
「弱肉強食だよ」
 充は繰り返して、その獣の頭に右手を乗せた。
 弱いものは喰われ、淘汰されてゆく。
「意識あるものにとって、正気は一番大事でしょう。自分がどこにいて、なにものなのか、分かっておかないと生きているとは言えないよ」
「やめろ」
 低い声で唸るように言うと、またくすくすと充が笑った。
「甘いなァ成瀬さん。喰い殺されたいんですか?」
 ゆるりと首だけ一馬の方へ向け、充は狼の額に当てた右手に力を込めた。
 かッと稲光のような閃光。
 ほんの、一瞬。
 ストロボを焚かれたように、視界に残像が残った。
 体中の力が抜けたような気がする。思わず膝から崩れそうになるのを、必死に堪えた。

 地狼が、櫛引の左腕を噛んだ顎を、ゆっくりと開く。
 唾液と血液とが顎の端からたつたつと落ちた。
 凶暴な牙から解放されたその腕は、だらりと体の横に垂れる。
 一馬はしばらく、充の血にまみれた腕を見ていた。
「本来は、こういうふうに使うんです。夢に潜るなんて、生ぬるいよ」
 がり、と牙が骨を砕く音が聞こえ、音のしたほうを見た。
 狼の顎が、赤黒い血で汚れている。地狼はひたすら、自らの前足を噛んでいた。
 骨が露になるまで自らの腕を噛み、そうしていたかと思うと突然地面に自らの頭をぶつけ始める。
「どうして目を逸らすんです」
 がつ、がつと地面に打ちつける音が、際限なく耳にもぐりこむ。思わず目を逸らした一馬を、充は笑った。
 立ち込める血の匂いに、むせ返りそうになる。
「醜いからですか。それとも、自分を思い出すからですか」
 小首をかしげるようにして、充が訊いた。
 自分が正気を失っていた頃のことを、思い出すからですか。
 意味もなくその体を刃で傷つけたころのことを。
「もうやめてくれ!」
 叫びが半分、嗚咽になって消えた。
「もうたくさんだ……!」
 これ以上もう、どんなものを突きつけられるのも耐えられない。
 いつのまにか、地に頭を叩きつける音は止んでいた。ぐったりと横たわる大きな獣の姿が、視界の端にあった。
「だから」
 左腕を体の横にだらりと下げたまま、充がこちらに向き直った。
「だから、私に下さい。前にも言ったでしょう。こうして生き延びることを忌むなら、生きてはいけないのだと。生き延びるためには、化け物におちるしかないのだと」
「どうして、こんなものが欲しいんだ」
 俯いて、右手を見た。中指の先から血が落ちる。血を見た途端、眩暈がした。思った以上に血は失われているらしい。
「言ったでしょう、私は、化け物になりたいのだと」
 一歩一歩ゆっくりと、充が間合いを詰めた。
 俯く一馬の視界に、右の掌を差し出す。白い、何の変哲もない掌だった。
「姉を喰いました。そのとき私は、人であることをやめようと思った。だって、人でいられるわけがないじゃないですか、生き残った説明がつかないよ」
 だって人だったら、どうしてこんな狭い部屋に幽閉されて、誰も見ないふりをしたんです。
 姉を喰って逃げようとした私に、どうして家のものが皆刃を向けたのです。
 逃がさぬように、存在を許さないように。『殺せ』と叫んだのです。
 そして私はどうして、逃げるために彼らの正気を喰ったんです。
 人のすることじゃないよ。
「人でなしなら、邪悪でいないといけないじゃないですか。許されぬ存在と疎まれるなら、それなりに、邪悪でいなければ示しがつかないじゃないですか」
 そうでもしなければ、苦しいじゃないですか。
 生まれてきてしまったのに。
 こうして、生きてきてしまったのに。
 そうでもしなければ、生きてゆくのが苦しいじゃないですか。
 生まれてきた意味を生きている意味を探しても見つからないなら、作るしかないでしょう。
 化け物になるために生まれてきたと、諦めるしかないじゃないですか。
「けれど、私の力はまだ半端なので、苦しいんです。諦められなくて。貴方の力を喰えば、本当に化け物になれるんです。成瀬さん、貴方はやさしくて、化け物にはなれない。だからもう、終わりにしましょうよ」
 辛いなら死んで楽になればいいよ。
 そうすればもう何も、貴方を苦しめるものはない。

 目の前に差し出された充の掌が、ゆっくりと持ち上がり、そうして、一馬の額に触れた。
 瞬時に、灼けるような熱さが額に走った。
 膝から力が抜けて、がくりとそこにへたり込む。畳についた手に、何か硬いものが触れた。
 額に軽く押し当てられただけの掌から、まるで脳を吸いだされているような気持ち悪さ。
 掌が触れている部分から灼けるように熱くなり、意識が切れそうになる。
 これが、喰われる痛み。
 一馬は、上手く動かない右手で、傍にあったその硬いものを手繰り寄せた。
「喰えよ」
 手繰り寄せたものを左手で掴み、一馬は言う。
「もうたくさんだ」
 この手に宿る力を憎むくせに、それと同時に夢を喰らうときに悦ぶ体の内側も知っていた。
 結局は自分が可愛くて、生き残ってしまうしぶとさや、醜いしたたかさを。
 なんて、汚い。
「お前にやるよ、持っていけ」



3.

「……どういうつもりなんですか、成瀬さん」
 ふと、額から掌を離して、充が訊いた。
 充の右の首筋に、気付けば鋭い刃が突きつけられていた。
 刃の先は血に濡れ、黒く汚れている。どこにでも売っているようなサバイバルナイフだった。
 それは確かに先程、成瀬一馬の右手を刺したものだ。
「喰えよ」
 真っ直ぐに充を見上げて、一馬は繰り返した。
「このナイフは、なんですか」
 太い血管がある首筋に押し当てられたつめたい感触。
 それを握っているのは、見紛うことなく成瀬一馬の左手だ。
 充は、自分に向けられる瞳に僅かに戸惑った。何かを、決意したものの瞳だった。
「食事をする一瞬が、一番無防備だろう」
 何かの動物の生態を説明するように、一馬が言った。
「喰らう一瞬、意識が遠退く」
「……ええ」
 充は頷いた。
「殺してやる」
 衝撃的な一言を、とても静かに言った。
「この力を、お前にくれてやる。でも俺はお前を赦せないから、その無防備な一瞬に殺してやるよ」
「今、刺せばいいじゃないですか。別に、その無防備な一瞬じゃなくても」
 言ってから、充は気がついた。ああ、と納得したように声を漏らして、口元を吊り上げるようにして笑った。
「ああ、そうか。それだと貴方、死ねないですしね」
 腹の底から何かが込み上げてきて、押さえきれずに充は笑った。そうか、夢を喰われないと貴方、死ねないですものね。
 今ここで刺したら、ただのひとごろしだからね。貴方は生き残ってしまうものね。
 死んで楽になりたくて、だけど自分の力が私の手に渡るのは、その力が何らかの悪事を働くのは、赦せないんですか。
 だから、自分も私も、殺してしまうんですか。
「我儘だなぁ。滑稽だよ、成瀬さん。共倒れなんて、全くうつくしくないよ。結局貴方は、逃げたいだけじゃないですか」
 この力から。この力に縛られた生き物から。私からも、自分からも。
「そうだ」
 充の咽喉に刃を押し当てて、一馬は簡単に肯定した。
「ずっと、逃げてきた」
 生き残ることも、全てを捨てて死んでしまうことも選べずに。
 なぁなぁの妥協案で今まで。
 この力を疎みながら人の夢を喰って生命を繋いで、ここまで。
 死にたいといいながら甘えていた。本当は、死ぬ気すらなかったくせに。
 傷ついて、慰めてくれる手や声を。ここに生きていていいという甘やかした言葉を。
 許しを。
 欲しがっていただけ。
 だから、人にやさしく出来た。だから、人の傷に触れた。
 全て、見返りを求めていたから。
「俺は卑怯だ。もう―――疲れた」
「そうですか。思ったより、陳腐な幕切れですね。正直、失望しましたよ」
 でも、こんなもんでしょうね。いいですよ、楽にしてあげますから。

 再び充の手が、額に触れる。
 一馬はナイフを握る左手に、力を込めた。
 一瞬。
 どん、と何かが横から充の体を突き飛ばした。
 充の手が額から離れ、その体が畳みに投げ出される。
 何が起こったのか分からぬうちに、左手からナイフをもぎ取られた。濡れた手に。
 からん、とどこかにそのナイフが転がる音を聞いた気がする。
 その濡れた手が今度は胸倉を掴んで。
 気付いたら、左の頬を殴られていた。力の限り。
 防御も何も取れず、口の中に鉄の味が広がった。
「ふざけるなよっ……!」
 胸倉をまだ握ったままの手は、小刻みに震えていた。
 驚きに目を見開いて、一馬はその相手を見上げた。
 やわらかそうな栗色の髪が今は雨に濡れて、顔に張り付いていた。
 同じ色の瞳がまるで、射殺すようにきつくこちらを睨んでいる。
「こんなっ……! いろいろな人を巻き込んで、心配させて、振り回してっ……、そんなこと言うな……!」
 声は、ぶつぶつと切れた。その間に、引きつった呼吸や、嗚咽とが混ざっている。
 制服のままで、頭から足の先までずぶ濡れだった。
 両手で胸倉を掴むその、濡れて冷えた手の震えが伝わって、息が出来ず。
「死ぬなんていうな……!」
 首を締め上げるような両手に額を押し付けて、くぐもった声で搾り出した声。
「どれだけ、皆が必死になったと思ってるのさ……。最低だ……!」
「要……」
 ようやく、名前を呼べた。
 それ以外の言葉は、出てこなかった。
 びしょ濡れで、どうしてここにいるの。場違いな質問をしそうで、黙った。
 まさか、こんなふうに殴られるなんて、思ったこともなくて。その力が口の中を切るほど強く。
 その口の傷や、伝わる震えや、ぶつけられる言葉の何もかもが痛くて。
 痛くて堪らなくて、突然、何の前触れもなく、涙が落ちた。
「ごめん」
 無様に畳に座り込んだままの口から落ちたのは、ただそれだけだった。
 首を横に振って、要が一度しゃくりあげた。
「謝っても……許さないよ。許せるわけ、ないだろ……」
 こんなの。ひどい裏切りだ。
 知らないんだ。どんなに、皆が必死だったかそんなことなんて何ひとつ。
 知らないで。
 置いていかれるもののことなんてお構いなしで、死ぬなんて。
 言う。
「自分ひとり死んだって、何も変わらないなんて、思ってるんだ。甘えてるよ……!」
 胸に額を押し付けているせいで、要の声は直に震えとして伝わってくる。
 冷えた体の温度も、時々しゃくりあげる咽喉のこまかい動きまで。
 リアルに。ダイレクトに。ごまかしようもなく。
 ひびく。
「ごめん」
 それ以外の言葉を忘れてしまったように。動く口唇。

 なんてことだ。
 安堵していた。
 途端、死ぬことが怖くなって、指先が震え出した。
 どんなに醜くても、汚くても、辛くても、やっぱり。
 やっぱり死にたくない。

 結局はいつも、引きずり戻す腕があるから。
 死ぬなんて言えたんだ。
 ぎりぎりの崖に来たら、後ろから引きずり戻して、叱ってくれる相手がいたからこんなふうに。
 馬鹿なことが出来たんだ。
 雅や、姫や、それから―――。
 結局は。
 誰かの手を。言葉を。きっと一番。
 お前の。

「俺はずっとお前に、甘えていたんだな」
 保護者の顔をして結局はいつも、引きずり戻してもらっていたのはこちらのほうだった。
 依存していたのは、俺のほうだ。

 胸に押し付けていた頭を、要がとても重そうに持ち上げた。
 目が赤かった。
「絶対許さない。死ぬなんて、認めない」
 強く、要が言った。紫になった口唇は、少し震えていた。
 その言葉は、やさしかった。引き止める言葉だった。
 死ぬな。
「嫌だからね」
 今まで胸倉を強く握っていた手の力を緩めて、離す。
 不意に要が、やさしい顔になった。困ったような顔になった。
 今にも泣くのを堪える顔で、言った。
「ひとりで家に帰るなんて、いやだ」
 重力に負けて、瞳から一筋、闇の中に光が落ちた。
 その雫を頬に伝わせたまま、僅かに首を傾けて、そっと。
「帰ろう」
 まるで、家を飛び出した子どもに言うような言葉で。
 やさしく、諭す。
「……そうだな」
 まだ、戻って来いと言って貰える場所が、手が。
 ある。
 なんて現金なのだろう。
 しあわせだと思ってしまうなんて。

 雨音が耳を打つ。お互いにもう、言うことがなくて黙った。
 改めて身にしみる冷たさや寒さや、麻痺し始めている右手の痛みやら。
 そんなものをやたらと実感し始めた。
 感覚が戻ってきたのかもしれない。
 そのとき。

「充」
 女の声がした。



4.

 狭い蔵の入り口に、ひとりの女が立っていた。
 白いシャツに、黒のロングスカート。背の中心まで流れるのは、黒檀のような髪だ。
「やぁ、奈津」
 窓枠にもたれかかり、地狼に噛み砕かれた左腕を庇うようにしながら、櫛引充はまるでそれを感じさせない声で言った。
 奈津と呼ばれた女は、すぐ傍の足元に転がる、巨大な獣の亡骸を見た。
 大きな瞳はそれでも、揺らぐ様子すらない。
 ゆっくりと、土間と畳の段差を上がり、あちこちに広がる血痕など気にも留めず、充との間合いを詰めた。
「賭けの、答えが出たのよ」
 雨はいつのまにか、小ぶりになっていたようだった。今まで気付かなかったけれど。
 さぁさぁとまるで、ノイズのような雨音が続いている。
 そうか、と頷いて、充は目を細めて奈津を見た。
「それで?」
 首をかしげるように充が訊いた。
 すると奈津は、とすんとその体を充に預けた。
「貴方の、負けよ」
 奈津の体を受け止めたその瞬間に、充の瞳が見開かれた。何かせりあがったものを押さえようと、無事な右手で口元を覆う。
 その指と指の隙間から、赤いものが溢れた。
 激しく咳き込む充から、ゆっくりと奈津が体を離した。
 その白い手には、先程要が放った、あのナイフが握られていた。
 充の腹部は、赤黒く汚れていた。
「このままだと、貴方があまりにも、かわいそうなんだもの」
「僕を殺すと……君も、死ぬよ、奈津」
 口の端から血を流しながらそれでも、充は笑っていた。穏やかな笑みだった。
「分かっているわ。貴方が私にかけられた呪いを中和していたんだもの。ねぇ、義兄さん」
 奈津は、入り口のほうを半ば振り返った。そこに、呆然と立ち竦む和服姿の男がひとりいた。
 ふわりと、やわらかく奈津は微笑んだ。
「満足ですか?」
 壁に背を持たせかけたまま、ずるずると充はそこに座り込んだ。うな垂れて、荒い息を繰り返す。
 呉覚は、義妹を見つめ返すだけで、何も言わなかった。
 奈津は、白いシャツの袖を肘まで捲り上げる。露になったその白い腕には、手首からびっしりと赤い刺青のようなものがまるで蔦のように絡まりついている。
「ほら、もうこんなにくっきり浮き上がってきた」
 自らの腕の内側を、ぼんやりと奈津は見つめた。
「貴方が私にかけた、呪いの刻印です。見えますか?」
 奈津は、覚に向かってその白い腕を伸ばした。反射的に、覚が一歩、足を退いた。
「私は貴方に、呪われて死ぬんです。これで満足でしょう?」
 奈津の瞳には、底なしの虚無が宿っていた。覚を見据えるその瞳に、ひとかけらの温度もない。
「身内への呪いは禁忌。呉の嫡男の貴方なら、そのぐらい知っていたでしょう。禁忌を犯してまで貴方は、当主の座が欲しかったのですね」
 かわいそうに、と奈津が言った。
「姉さんっ!!」
 戸口に立ち尽くす覚を押しのけ、黒い影が飛び込んできた。
 畳の上に乗り上げてから、部屋の惨状に驚いたように立ち竦む。
 血だらけだ。
「姉さん……」
 仁は、すぐ傍に立つ姉を見た。姉は透明な目をしていた。
「どうしてこ……」
 どうしてこんな。仁の言葉は途中で切れた。愕然と、姉の腕を見る。
 赤い蔦のような刻印から、じわじわと血が滲み出していた。どうやらその印は全身に及んでいるらしく、奈津の白いシャツに徐々に赤いしみが広がってゆく。
「あまり、呪術の源に近づいたからよ。私は本当はもっと早く、こうして死ぬはずだったの」
 奈津は、仁の肩越しに覚を見る。「そうでしょう、義兄さん」
 仁は、化け物でも見るようにゆっくりと義兄を振り返った。
「やっぱりあんたが……」
 姉さんに呪いをかけていたのか。
 振り向いた先、覚は微動だにせずに仁を見つめ返した。その瞳は何も映していないようにも見えた。
 汚く舌打ちして、仁は姉の手を掴んだ。
「ここから離れよう、早く……」
「ここから離れても、充が死ねば私も死ぬのよ」
 全身にまわった呪い。それを最後の一歩で食い止めていたのは、櫛引充の不完全な夢喰いの力。
 不完全な力ゆえに、呪いを中和することは出来ず。ただその進行を食い止めるだけの。生殺しの力。
 その力が消えれば、ここまで進行した呪いは一気にこの身を食い尽くすだろう。
「貴方のせいです」
 奈津は、覚に言った。
 これは復讐だ。
 貴方のせいで失われる生命を、目の前で見せ付けてやりたかった。
「私はずっと、死ぬならば貴方の目の前にしようと決めていたんです」
「一馬!!」
 奈津の声に被さるように、聞きなれた声が叫んだ。
 その声の主が戸口を占領する覚を押しのける。覚はそのままそこにずるずるとへたり込んだ。
 傍に転がる地狼の死骸を一瞥してから、狭く暗い室内を見回す。
「雅……」
 その姿を見とめて、一馬はその名を呼んだ。
 あちらこちらに散らばる赤黒い血の池に、雅は眉をひそめた。
「動くな。今、救急車を呼ぶ。―――都佳沙、見張ってろ」
 びっしょりと濡れたスーツの内側から携帯電話を引きずり出して、雅は一度蔵から外へ出た。
 入れ替わるように入ってきた都佳沙もまた、室内の惨状を見て、小さく息を呑んだ。

 あとは、沈黙。
 室内の誰一人として、動いたものはなかった。
 部屋の隅で座り込んでいる一馬や要も、中央に立ち尽くす奈津や仁も。
 ただ、端で胎児のように丸まって眠っている少女の寝息だけが、不似合いに響いた。

「……成瀬、さん」
 か細い声で呼んだ。唯一外界と繋がっている窓の下で、腹を押さえてうずくまる男が。
 ぐったりとうな垂れた頭を、何とか持ち上げて、櫛引充は一馬のほうを見た。
「私たちは、かわいそう、らしいよ」
 口唇の端から血を流しながら、荒い呼吸の合間にとつとつと呟く。
 一馬は思わず立ち上がっていた。要が小さく名前を呼ぶのにも返事をせず、充の目の前に立つ。
「貴方のように、この力を、認めずにいても。私のように、化け物に徹しようとしても……」
 すぐ傍まで来た一馬を見上げ、充は困ったように笑った。
「どんな生き方をしても、かわいそうらしいよ」
 元々が、かわいそうな生き物なんだろうね。
「結局……」
 腹部の傷口を押さえていた右手を持ち上げ、充は目の前にかざす。白いはずの肌が、黒く汚れていた。
「どんな生き方をしても、僕たちは苦しむように、出来ているんだ。惨めだなぁ……」
 楽になど、なれなかったよ。化け物になろうとしたけれど。
 やっぱり苦しいんだ。
「苦しまずに生きていくなんて、そんなこと、したくない」
 一馬が言った。
 この力を持つ限り、意識を喰う代償に苦しみはあるのだ。
 いや、こんな力などなくても生きている限り、常に苦しみはあるのだ。
「苦しまずになんて、生きられないよ」
 なんてかわいそうな、けもの。

 充が、澄んだ瞳で一馬を見上げた。なんだか、新しい発見をした子どものような目をしていた。
「ああ、そうか。僕たちは結局こんなふうに……生きていくしか……」
 自らの存在に惑い、自らの中身を嫌悪して、絶えず死への衝動と戦いながらそれでも。
 苦しみながら泣きながら生きていかなければならないのですか。
「それじゃあまるで……人間じゃないですか」
 そんなの、人間以外のなにものでもないじゃないですか。

 遠くから、救急車のサイレン。
 徐々に近づいてくる。
 充は、傷ついた腹部を庇うように体を縮めた。
 胎児のように。
「安っぽい終わりだなぁ……」
 声と肩が小さく震えていた。
 人間だなんてさ。


 しばらく向かい合ったまま、一馬と充は動かなかった。
「カズマ、もう行こう」
 後ろから一馬の右手を掴んだ要が、次の瞬間ハッとその手を離した。
 掴んだ手が、ぬるりと滑った。冷たかった。
 なまなましい感触が自分の右手に残って、要はその手を目の前にかざす。
 赤黒く汚れていた。
「か、カズマ、その右手っ……!」
 慌てふためく要の声を、一馬はどこか遠いところで聞いていた。
 視界が暗い。
 後ろから、今度は手ではなく腕を掴まれ、反射的に膝が崩れる。
 何かを叫んでいる要の声が聞こえる。何を言っているのだろう。
 ただ、近づいてくるサイレンの音が波のように近く遠く繰り返し、その最中。
 充のちいさな独白だけはしっかりと聞こえた。


―――良かった。








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